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海外赴任者の健康診断をどう設計するか ――人事担当者が押さえておきたい「リスク管理」の視点―― 

海外赴任は旅行ではなく「勤務」であり、そこで生じる健康リスクは、本人だけでなく会社も一緒に負うことになります。特に海外赴任では人員の融通がきかず、業務が過重になりやすいこと、治安・食環境・移動手段の制約が生活全体に影響することも含め、国内勤務より様々な健康リスクが高い点はこれまでの記事でも触れてきました。

海外赴任で問題になりやすいのは、主に以下の3つです。

  • 感染症 
  • 生活習慣病(高血圧・糖尿病など) 
  • メンタルヘルス 

このうち、メンタルヘルスは健診ではなく定期的な面談や国内医療職への相談ルートの整備で対応することになりますが、生活習慣病・感染症のリスクを赴任前に下げ、赴任中も適切にコントロールするための基本が健康診断ワクチンなのです。 本記事ではこの中でも、赴任前の健康診断について扱います。 

1. 健康診断の本質は「福利厚生」ではなく「就業管理」 

健康診断は、単なる福利厚生サービスではなく、「この人がこの業務を安全に行えるか」を判断するための就業管理のツールです。この原則は国内勤務でも海外赴任でも同じですが、海外赴任の方が業務上リスクは高く、より一層「リスク管理」の意味合いが強くなります。

特に海外で注目すべきは医療体制です。医療アクセスが悪ければ、急性疾患の救命率や治療費が大きく変わるだけでなく、慢性疾患の適切な管理も難しくなるため、会社にとって重大なリスクになります。特に慢性疾患の悪化は渡航者保険のカバー対象外とされていることも多く、健診やその後のフォローで管理していく必要があります。

一方で、労働安全衛生法では海外赴任前後の健診が定められているものの、肝心の赴任中は義務が外れてしまいます。それにも関わらず、現地死亡や重症化による医療搬送が起これば、費用負担は国内とは桁違いになりますし、企業の責任である労働契約法上の安全配慮義務が軽くなるわけでもありません。

だからこそ「法律に書いてあることだけやる」では足りず、自社の実情に合った健康診断・就業判定の方針を設計する必要があるのです。

2. 何を確認すべきか:項目選定のポイント 

派遣前健診の目的は主にこの3つになります。

  • 本人(+帯同家族)を海外に送り出してよいか
  • 送り出すために必要なサポート・治療は何か 
  • 国内と同等の治療やケアを海外で継続するには、どのような準備が必要か 

特にメインの目的となるのが「渡航可否判定」ですが、これこそ法定健診項目だけでは不十分です。 

  • エコノミークラス症候群など航空機搭乗に関わるリスク 
  • 大気汚染地域で問題になる気管支喘息や呼吸器疾患 
  • ビザ取得やワクチン接種に関わる感染症 
  • 治療中疾患の内服継続の可否や処方変更の見通し

これらは派遣可否に大きく関わりますが、法律にある赴任前健診項目だけではフォローできず、面談や問診で把握しなければ見落としてしまうリスクになります。さらに、現地での発症を避けるためのがん検診や、治療環境を考慮した歯科健診なども、本来は赴任前に検討したい領域です。 

しかし現状として、「海外赴任の前にはいつもより良い人間ドックを受けてもらう」などの対応にとどまっている企業も少なくありません。その結果、必要な検査はできていない一方で、「なんとなく不安だから」と受けた「●●リスク検査」などで高リスクと判定されてしまい、精密検査で時間を要したもののこちらは何も見つからなかった、結果として赴任が遅れてしまった、といったことも起こりえます。 

「項目数が多い人間ドックを受けさせておけばとりあえず安心」という発想は、海外赴任においてはむしろ逆効果になりうると考えた方がよいでしょう。 

3. 健診後のフローと「就業判定」を設計する 

ここまで項目の選び方について触れてきましたが、最も大事なのは、「検査をした後どうするか」のフロー設計です。 

  • 精密検査が必要になった場合、どこ(国内or現地)でいつまでに実施するのか 
  • 治療が必要になった場合、どの程度の期間で安定化を図り、その後の渡航可否をどう判断するのか 
  • 渡航不可・条件付き可となった場合、国内でどのようにフォローするのか 

ここで避けたいのは、「健診は受けたが、誰も就業判定をしていない」という状態です。渡航前に駆け込みで健診だけ受けて、結果が届く頃にはもう赴任している、では健診を行っている意味はほとんどありません。 

最低限、産業医や渡航医学に知見のある医師が、職務内容と健康状態を踏まえて職務適性を判断する必要があります。更には必要な精密検査や治療を国内で行うのであれば、その時間も必要です。判定や受診にどの程度の時間が必要かを計算し、更にはワクチン接種のスケジュールなども考えて赴任の内示や手配の時期を検討するのは、企業の基本的な安全配慮の一部といえます。 

4. 結論:普段の健康管理と専門職の関与がカギ 

海外も国内も健康管理の原則は同じである以上、大事なのは「普段から国内でどれだけ適切に健康診断のフォローと就業判定をしているか」です。国内でできていないことは、医療アクセスが限られる海外ではまず実現できません。 

一方で、法律が海外赴任に特化して細かく定めてくれているわけではない以上、「何をどこまで確認するか」は各社が主体的に決めていく領域です。安全配慮義務と個人情報保護のバランスをとりながら、ルールやフローを整備することが求められます。 

海外赴任の健康管理は、どうしても時間と手間がかかります。しかし1件の重大事故や医療搬送がもたらす金銭・訴訟リスクを考えれば、そのコストは決して無駄ではありません。 
人事部門だけで抱え込まず、産業医や渡航医学の専門家と連携しながら、自社に合った海外赴任者の健康診断と就業判定の仕組みづくりを進めていただければと思います。 

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