近年の健康経営度調査では、「グローバル展開」が評価枠としての重みを増しています。ポイントは、海外拠点やグループ会社にまで健康経営を広げる意思と、そのためのガバナンス(統制)を企業に求め始めたことでしょう。2024年度までは調査票のグローバル方針に関する設問が「実態把握(評価に不使用)」だったのに対し、2025年度からは「グループガバナンス(不適合判定を含む評価枠)」へ変化しており、取り組みがより重く見られるようになりました。
今回の記事は2026年1月20日に弊社で開催したセミナー「健康経営優良法人に求められる海外拠点での健康リスク管理」の内容を踏まえ、今後グローバル展開を行う企業が求められる「海外拠点の健康リスク管理」についてまとめます。
1. なぜ今「グローバル」なのか:政策の流れと企業内格差
健康経営において、海外赴任者に関する設問は2015年以前より存在しました。特に感染症対策を中心とした予防接種・緊急搬送体制・教育研修は個別項目として整理されており、「駐在員の健康支援」という意味では近年話題になったわけではありません。
大きく変わった流れは、健康経営自体の捉え方です。経産省は2020年頃から「健康経営の国際展開」を掲げ、2021年から日本主導での国際規格化(ISO25554)を行い、これが2024年に発効されたことを機に、2025年の中核方針にも位置づけられました。特に東南アジアなどでは健康経営の制度自体の輸出やフォーラムの開催などが進められると同時に、このような展開を通じたヘルスケア産業の海外市場創出も政策目的とされています。
つまり、これまで健康経営と海外については、「駐在員の健康支援」が中心であったのに対し、近年の改訂では「グローバル展開」を中心に、海外グループなども含めた体制構築が求められるようになってきたといえます。

(2025年健康経営調査票(サンプル)より抜粋)
2. 企業が作るべきものは2つ:「ハコ(体制)」と「プロセス(運用)」
言い換えると、この調査票の位置づけは「ハコ(体制)」と「プロセス(運用)」の整備を求めるようになっている、ということです。
今回の改訂までは、あくまで駐在員の健康支援という「プロセス」のみが問われている状態でした。しかし今回の改訂では「海外の健康経営実施体制」という「ハコ(体制)」の話題に言及されています。
つまり企業側の動きとしては、
- 推進体制(ハコ)の構築:グローバルで推進する方針、会議体、共有、事例づくり
- 運用体制(プロセス)の整備:海外特有の事情を踏まえつつ、国内の枠組みに乗せる
が必要とされているということです。
特にハコ(体制)を構築するうえで、よくある見落としが「制度の切れ目が支援の切れ目」という問題です。
- どこからが「海外赴任者」か(長期出張・短期出張が放置)
- 所属事業場が曖昧で医療職の“担当不在”が起きる
- 国内システムを使えない海外では必要な情報が本人/支援側に届かない
こうした切れ目は、運用リスクとして全体を不安定にします。グローバルで体制整備をする中で、「グループすべての従業員を健康経営・支援の対象とできる体制構築」がまず重要になるといえます。
だからこそ「法律に書いてあることだけやる」では足りず、自社の実情に合った健康診断・就業判定の方針を設計する必要があるのです。
3. 海外の健康リスクは“国内の延長”ではない:4つのリスクで捉える
ハコ(体制)は重要ですが、プロセス(運用)についてもこれまで以上の対応が求められています。特に近年では駐在員に関する健康管理が訴訟など社会問題化していることも踏まえ、適切なリスク管理が求められています。
まず重要なのは、単に海外展開といっても、「国内の健康施策と同じことをすればいい」というわけではないことです。現地の生活環境や各種レギュレーションも踏まえた対応が必要です。
特に海外では、①医療アクセス(質・アクセス・費用)②感染症・生活環境 ③業務負荷(特にメンタル)といった要因が重なり、国内よりも「一度起きたときの被害」が大きくなりがちです。
この前提で、海外の「リスク管理」を次の4つに分ける整理が有効です。
- 急性リスク:急病、外傷、災害・治安、感染症など
- 慢性リスク:生活習慣病、がん、歯科、妊娠・不妊治療、治療継続・薬剤入手
- メンタル・適応リスク:適応障害、帯同家族、時差・長時間労働、現地コミュニケーション
- 運用リスク:個人情報管理、対応スピード、体制・専門性不足が他の全リスクを増幅
ここで重要なのは、「海外は何でも特殊対応」ではなく、国内の標準的対応を可能な限り展開し、例外だけを個別管理するという発想です。これまでの健康経営の質問票にもあったように、海外というと予防接種や緊急搬送といった、「特殊性」にばかり目が向きます。しかし実際に多く、かつ問題になりやすいのは生活習慣病の放置やメンタルヘルス不調からくる、脳血管疾患や精神疾患などの急性リスクです。これらは国内でも存在するリスクですが、海外だと対応が疎かになっている場合が少なくありません。むしろ海外では、搬送費や治療費が莫大になる可能性もあるため、急性リスクを“1件も起こさない”温度感で、慢性疾患管理とメンタル支援を強める必要があります。
4. 結論:改めて「海外に通用する国内体制」を
海外も国内も健康管理の原則は同じである以上、要点はそこまで大きくかわりません。
健康経営の質問票としても、これまでの「感染症を中心とした、海外特有の事情への支援」から、「国内と海外で同様の健康経営の展開」にシフトしていることを踏まえれば、実はこのタイミングで見直すべきは
- 今一度、世界に通用できる体制が国内で整っているのか
- 国内と海外で基本的な健康管理に大きな差が出ていないか
の2点なのです。
人事部門だけで抱え込まず、産業医や渡航医学の専門家と連携しながら、自社に合った健康経営・海外健康支援の仕組みづくりを進めていただければと思います。
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