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本当に大丈夫?海外駐在員の過労と健康管理

最近、「海外赴任者の過労死・過労自殺」というのが少しずつ報道される機会が増えてきたように感じます。先日もNHK*1で取り上げられましたが、今回は「海外駐在」のリスクと健康管理について、少し考えてみます。

*1.参照先:NHK HP https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250522/k10014813301000.html

海外駐在は労働基準法上、少し特殊な扱いがされています*2。例えば赴任中は健康診断や時間外労働制限の対象からは外れるとされています。しかしこれは「実質的な管理が難しいから」というのが主な理由で、決して「海外駐在員のリスクが低い」というわけではありません。むしろほとんどの専門家は、「海外駐在員は国内よりリスクが高い」と考えています

(弊社ご提供資料より抜粋)

*2.企業の安全配慮義務に関する資料はこちらよりダウンロードいただけます。

社会構造のグローバル化により、多くの企業が社員を海外に派遣する時代となっています。海外では、気候、風土、言語、社会の慣習、文化など、様々な面で日本とは異なる環境があります。そのような環境下では、日本とは異なる様々な健康問題が存在しています。
また、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、海外赴任者や在住者への健康管理支援をどうするかといった新たな課題も生じました。

では企業はどのようにしてこの問題に対応すべきでしょうか。

まず労働時間の管理は必須です。確かに労働基準法上の労働時間管理については、現地の法律が基準となりますが、だからといって「国内からやる必要性がない」ということにはなりません。例えば過労死・過労自殺、そうでなくても何かしらの労働起因性の病気が発生した場合、その管理責任が駐在元にあると判断されれば、当然に企業の管理責任が問われます。民事での損害賠償請求などの可能性も考えれば、最低でも国内従業員と同レベルの労務管理を行うことが求められています。

今の時代、リモートでの勤怠管理も当たり前になっていますから、過去の実態に基づいた法律を根拠に「海外だから管理が難しい」というのは少し危ない対応といえます。

海外労働者用の旅行保険などをかけている企業も多いと思いますが、当然過労自殺の場合は対象外です。過労死の場合においてもその事由によっては対象外となる可能性もあり、過労死・過労自殺にかけられる「保険」はありません。

だからこそ大事なのは、「保健=健康管理」なのです。

これまで触れてきた通り、海外駐在には日本と異なるリスクが多数あります。基本的には日本より負担がかかりやすい状況、つまり「健康上のハイリスク者」であるという考え方が重要です。少なくとも日本で行っている健康管理については、海外駐在員に行うことが現実的でないものを除き、しっかり行うべきです。

例えば健康診断。帰国時に受けて、結果が会社に来る頃には赴任先へ戻ってしまっていることも多くあります。しかし「国内にいないから」という理由だけでその後の対応を怠ってはいないでしょうか。特に海外においては食生活などの変化で、リスクが増す場合もあり、より踏み込んだ対応が必要なことも少なくありません。

メンタルヘルスついても、母国語で話せない状況では適切なケアを受けることは難しくなります。現地赴任メンバーも数が限られており、相互のケアも不十分になりがちです。国内から専門性を持った健康管理スタッフがフォローすることが望ましいかもしれません。

このような点について、国内と同レベルの対応ができているのかは是非再確認頂きたいですし、国内より健康リスクが高いという前提に立てば、より踏み込んだ対応を行うべきではないでしょうか。 

例えば健康管理スタッフによる定期的な面談や実態把握により、体調や健康状態の変化を早期に把握することは有用です。避けるべきは「赴任が継続できなくなるほどの体調悪化」であり、その前の軽微な段階で予防的に対処を行うことができれば、企業のBCPにも貢献します。 

上司によるフォローも必要ではありますが、どうしても仕事上の関係性があると「国内にはこの状況を理解してもらえない」などとなりやすく、人事や健康管理スタッフによるフォローの方が効果的かもしれません。 

海外駐在員の健康管理を専門に取り組んでいると、「担当できる人事の余力がない」「人事や健康管理部門に知識がない」というお声をよく伺います。しかし海外駐在員になにかあれば、企業は多額の出費、そして社会的責任を負うことになります。その費用は担当者を置くことや、適切な知識を学べる場所に送り出すことよりも、遥かに大きな額になります。 

もちろん人の命をお金で測れるわけではありません。しかし、リスクを放置することが最大のリスクである、ということをぜひ知って頂き、適切な対策を行うことが、「海外に従業員を駐在させる企業の責任」ともいえます。 

海外駐在員の健康については、日本渡航医学会や日本在外企業協会も様々な勉強会を開催しています。こういった場所に参加するだけでも、知識や対応力は格段に変わっていきます。 

是非自社の取り組みについて確認し、より良い健康管理につなげて頂ければ幸いです。

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