
近年の定年延長政策の影響により、企業の海外駐在員の年齢が上昇傾向にあります。それに伴い、健康や生活面のサポートがますます重要となっています。ここでは、高齢の駐在員を支える人事部門が押さえておきたいポイントや対応策をご紹介します。
高齢の駐在員の具体的な年齢は?
2021年に施行された高年齢者雇用安定法により、企業は70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。これに伴い海外駐在者の高年齢化が散見されています。「高齢の駐在員」の明確な定義はありませんが、一般的には60歳以上、特に65歳を超えると健康リスクの観点からも配慮が必要とされるケースが多くなります。企業によっては定年後の再雇用制度を活用して、60代後半の社員が海外で活躍する例もみられます。
知っておくべき高齢駐在員の健康リスク

- 慢性疾患の増加
- 加齢に伴い、糖尿病、高血圧、心疾患などの慢性疾患のリスクが高まります。すでに慢性疾患について治療中の社員もいるでしょう。海外では医療環境や言語の違いから、日本と同様の継続的な治療が難しい場合があります。医療体制が整っていない地域への駐在は特にリスクが高まるため注意が必要です。
- 環境適応力の低下
- 年齢を重ねるにつれて、新しい環境への適応力が低下する傾向がみられます。特に海外駐在では、言語、文化、食生活など多くの変化に対応しなければなりません。長年海外駐在をしているベテラン社員であっても、高齢になると、体力の衰えに加えて、ストレス耐性が低下する可能性があります。企業は、高年齢層の駐在員が安心して海外勤務を継続できるよう、年齢に応じた健康サポートやストレスケア体制を強化する必要があります。
- 緊急時の対応の難しさ
- 高齢者は、急な体調不良や事故のリスクも高まる傾向にあります。特に医療体制が整っていない地域では、緊急時の対応が遅れることもあり、迅速な処置が難しいケースも少なくありません。単身赴任の場合は、身近なサポートが得られず、体調の変化に気づきにくいという課題もありますこうした状況を踏まえ、定期的な面談や相談体制の整備を通じて、駐在員が現地で安心して業務に専念できる環境づくりの重要性が一層高まっています。
人事部門が講じるべき4つの対応策

- 派遣前の健康チェックとリスク確認
- 駐在前には総合的な健康診断を実施し、慢性疾患の有無や健康リスクを評価することが重要です。必要に応じて産業医やかかりつけ医の意見を仰ぎ、駐在の可否を慎重に判断しましょう。慢性疾患の場合、保険でカバーされない、医療体制が整っていない、十分なフォローが受けられない、などの理由で受診を控え、症状の悪化を招いた事例もあります。駐在者の健康状態をしっかりとヒアリングし、駐在先で適切な治療が継続できるのか、駐在者本人に自己管理を徹底する意思があるかも確認し、駐在による不利益が生じないような対策が必要になります。
- 現地の医療体制の把握と情報提供
- 現地の医療体制について把握し、駐在者に適切な情報提供を行うことが望ましいです。可能であれば、日本語に対応している医療機関や慢性疾患の診療できる施設の情報があるとより良いでしょう。第二言語で業務上のコミュニケーションが問題なく取れても、医療用語となるとハードルが高くなり、それがネックで受診できない場合もあります。しかし、地域によっては日本で得られる情報には限界があるかもしれません。すでに駐在している社員や帰任者から得られる現地の情報を整理し、次の赴任者に共有するのも効果的です。
- 適切なタイミングでの一時帰国と帰国期間の確保
- 現地の医療機関では十分なサポートが得られない場合もあるでしょう。健康診断や追加検査、治療中の疾患の定期的なフォローのために、適切な時期の一時帰国や帰国期間の調整も必要です。
- メンタルヘルスのサポートの充実
- 高齢駐在者に対しては特にメンタルヘルスのサポートも重要です。定期的なヒアリングや相談窓口の設置など、メンタルケアの体制を整えることが求められています。現地での日本人コミュニティの情報提供も、孤立防止に役立ちます。何かあった時に気軽に相談できる窓口がある、というのが重要です。
おわりに
定年延長により、海外駐在者の高齢化が進む中、健康管理の重要性はこれまで以上に高まっています。駐在前には丁寧な健康状態のヒアリングを行い、駐在中も万全なフォロー体制を整えることが欠かせません。海外という特殊な環境でも、駐在者が安心して業務に取り組める体制を整えることは、企業の持続的な成長にもつながる大切な取り組みと言えるでしょう。
SaveExpatsが提供するサービス
SaveExpatsではオンラインでの定期的な保健師面談に加え、ご本人が希望されたタイミングでのリクエスト面談が可能です。また、医師、看護師、薬剤師、助産師、カウンセラーと各医療職との面談リクエストも可能で、様々なお悩み・ご相談に対応しております。
参考資料:https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/sanpo21/sarchpdf/99_02-11.pdf